ゴー宣DOJO

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切通理作
2012.1.4 07:49

アンパンマン裁判の結果は?

ゴー宣ネット道場配信番組
『切通理作のせつないかもしれない39 アンパンマン裁判開廷・アンパンマンは偽善者か?真っ向対決!』 http://www.nicovideo.jp/watch/1324722720
見てくださった方、
ありがとうございます。

感想くださった方の声にあった通り、
僕はアンパンマンというよりは
作者のやなせたかしさんを「偽善者」だと
言いたいのかもしれません。

「自己犠牲なしに正義はありえない」
と著書で断言してるのに、
いくらでも再生でき、本質的には
自己犠牲ではあり得ないアンパンマン
をその具現者としてヒーロー扱いするやなせたかしさんを
「嘘つきだ」と思ったわけです。

特攻隊で弟を失ったやなせさんは
しかし戦後になって日本は間違っていたと
言われ始めたのを知って価値観が相対的になり
「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」
というアンパンマンの主題歌にそれを込めたといいます。

つまり戦後の平和を基点としながら
「飢え」という、平時には簡単には起こらない
現象を媒介にしているところに
アンパンマンのねじれがあると思うのです。

リアルに飢えていたら、人のものを奪ってでも
食べたいと思うはず。
そんな中で他人に分け与えることが出来るのは、
まさに自己犠牲です。

アンパンマンは食から「生死」を
抜き取り、
リアルな飢えを知らない現代の子どもたちに
「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」
と吹き込み、生死の境界をあいまいに
してしまいます。

そんな中で「人を殺してみたかった」
と、無理やりにでも生死の実感を
取り戻そうとする不条理殺人の
少年が現れる……

「アンパンマンと不条理殺人」というのは
極論においては結びつくと
私は思っています。

僕がかつてウルトラマンに見出したものは、
何かを取れば何かを失うかもしれない
という葛藤や、
自分に殺された敗者の業を
背中に負っているヒーローの姿でした。

ウルトラマンを暴力的で
アンパンマンを健全だと思っている人が
もしいるとしたら、
逆の可能性も考えてほしい……
と僕は若いころから思っていました。

しかしいまは
こうした自分の考えも、
ただ一方的に述べるのではなく、
柔軟性がほしいと思ってきました。

そこで夏の被災地報告の回以来、
番組に二度目のゲストとして
泉美木蘭さんを招いたのです。

木蘭さんのいう、パン職人のジャムおじさんや
人々の助けがなければアンパンマンは再生できない……
というのはなるほどと思いました。

アンパンマンだって、
なにも一人の人に
食べ物をいっぱいあげて
飽食させてるわけではない。

人が出来る範囲でする「善意」の幅
そのものがアンパンマンなんだ
――という捉え方は、

木蘭さんが今年の大半を
被災者とともに過ごしたこととも
重なり合い、説得力がありました。

加えて考えれば、
ジャムおじさんのような人の
日々の労働からアンパンマンが
生まれるというのは、

社会の底支えを職人さんたちがしていて、
ある意味そこで回していける部分もある
という、日本人の持つ美質を
表しているのかもしれません。

すべてをイチかゼロかで判断し、
意義のないものは死ねばいい……
という価値観そのものを
乗り越えているのかも。

ただ、かといって
僕はアンパンマン肯定論者に
鞍替えしてはいないのです。

アンパンマンは
戦後の日本人のねじれと美質を体現しており、
やなせたかし氏も
優れた才能でそれを純粋に
反映していたのではなかったのか……と。

まだ見ていない皆さんも、
ぜひ感想を教えてくだされば
幸いです。

 

※泉美木蘭さんゲストの後篇はこちら!
『切通理作のせつないかもしれない40 新雑誌「前夜」への意気込み&2011私的3大 トピックス』http://nico.ms/1325148776 小林よしのり編集長「前夜」で執筆している切通理作と泉美木蘭が、創刊号の作品に ついて語り、震災からプライベートの話まで、2011年を振り返る。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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